INTERVIEW

藻類の研究開発で
人々と地球の未来に貢献する

株式会社アルガルバイオ
代表取締役社長CEO
木村 周
藻類の研究開発で<br>人々と地球の未来に貢献する
株式会社アルガルバイオは、東京大学発ベンチャーとして「藻類の研究開発で、人々と地球の未来に貢献する」をミッションに、健康・食糧・環境といった産業領域に最適な藻類技術をパートナー企業へ提供するバイオファウンダリー型藻類開発プラットフォームを構築している会社です。同社の事業内容と将来展望について、代表取締役社長CEOの木村周氏にお話を伺いました。(2024年5月22日訪問)

貴社の設立経緯と事業内容を教えてください。

アルガルバイオは2018年に創業しました。藻類を活用したバイオものづくりの開発プラットフォームを構築しています。化粧品、健康食品、バイオ燃料、バイオプラスチック、CO2の有効利用などを、藻を活用して事業化したい会社に対して、必要な技術を提供する事業体です。東京大学・新領域創成科学研究科で藻の研究を20年以上されていた河野重行名誉教授が2017年にご退官されることになり、河野先生の最後の弟子であった創業者の竹下毅(現・取締役CSO)が、藻の社会実装をするにはアカデミアの研究ではなく事業会社のフィールドでやるべきとの思いで創業したのが経緯です。

木村社長のご経歴と社長就任にいたった経緯をお聞かせください。

私はもともと三井物産に新卒で入り14年間勤めていました。食の安定供給をするためにはどうしたらいいのか、どちらかといえばバリューチェーン全体を捉えて、農業化学や栄養科学の観点で食の安定供給を司る事業本部で、肥料の資源開発や畜水産向け飼料添加物の製造事業領域を担当していました。三井物産で働く前は、お恥ずかしながら、農業に対して私は非常にグリーンでクリーンなイメージを持っていました。しかし、たとえば農業を支える肥料資源において、窒素・リン酸・カリといった主要な肥料原料は鉱山開発やガス化学といった非常に大きな環境負荷をかけた活動によって成り立っています。あるいは、我々が安く食べられる鶏肉のような動物蛋白は、この50~60年で生産性が約6倍に上がっていますが、それを支えている飼料添加物であるメチオニンは非常に環境負荷の大きい化学プロセスで製造されています。こうしたことを、仕事を通じて肌で感じることが多く、人口100億人時代と言われるような時代を、これまでの大量生産・大量消費の食のあり方でこのまま続けていくのは無理があると感じました。そこで2016年頃から、新しいよりサステナブルな技術としてフードテックやバイオテックに注目をして、三井物産で投資活動を推進していました。
アメリカのBeyond Meatなどのフードテックスタートアップに投資をしてボード・オブザーバーとして参加し、何もないところから社会的な価値を生み出すため、24時間・週7日、全身全霊働いているメンバーたちと一緒に仕事する中で、自分自身も「人生、どういうことに時間を使うべきなのかな」と考えるようになりました。まさか自分がスタートアップをやるとは当時全く思っていなかったのですが、リスクをとって社会的な価値を実現するチャレンジの最前線にいるスタートアップに転職して新しいチャレンジをしようと心に決めました。
その後エージェントに登録したり、知り合いのスタートアップ経営者にお話を聞いたりとアンテナを張り始めていたタイミングで、UTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)からLinkedInでメッセージをいただいたのが、アルガルバイオに加わるきっかけでした。アルガルバイオとしては、創業者の竹下が研究者ということもあって、シリーズAの資金調達後のタイミングでビジネス側から竹下と一緒に会社の経営をリードできる人材を招き入れることが会社の方針としてありました。その中で、フードテックの領域で実業をしていた人材、事業会社の経営経験がある人材、できれば藻のことを少しでも知っている人材といったクライテリアがあり、ペルソナとしては商社の人材が合うのではとのことで、たまたま私に声がかかったという経緯です。
私がアルガルバイオに加わることを決めた理由は大きく二つあります。一つ目に、数十年というスパンでよりサステナブルな形で食の安定供給をするために、何がいいのかと考えた際、三井物産にいた時から藻の可能性に注目していたからです。ただ、アメリカの藻の会社ともお付き合いはあったのですが、いずれも残念ながらChapter11(米連邦破産法11条)で破綻するなどうまくいかなかったので、可能性があるのになぜビジネスとしてスケールしないのかと考えていました。
私なりの仮説の一つとしては、プロダクトマーケットフィット(PMF)がビジネスプロセスの最後にきていること。実際、一種類の藻の大量生産方法の開発には成功したけれど、それからマーケットにいかに売っていくかというPMFが最後に来て、そこで立ち行かなくなるケースを多く見ていました。これは逆であるべきで、プロダクトになりえる藻は何かというアプローチを取らないと、藻の業界はうまくスケールしないのではと考えていました。そのために必要なものは、様々な藻の特徴を捉えたデータや株のライブラリーではないかと漠然と考えていました。アルガルバイオのお話をいただいた時に、東京大学でまさにそうした目線で株のライブラリーを構築していたので、ユニークで可能性があるかもしれないと思いました。 二つ目に、三井物産時代の海外経験から、やはり日本はもったいないなと思うことがよくありました。アメリカのスタートアップはビジョンだけでお金を集め、経験やスキルを持ったエグゼクティブを採用しゼロから形にしてしまう。アメリカはそうした胎動を作り出すことがとても得意ですが、最初の中身は空っぽということも往々にしてあります。逆に、日本ではシーズはしっかりあるのに、その胎動を大きく社会実装できないことがあると感じていました。そこで、アメリカで経験したことをシーズをしっかり持っている日本の会社に少しでも持ち込んで、日本初のグローバルで勝負できるバイオベンチャーを作れれば、こんなにワクワクすることはないなと思いました。

事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?

アルガルバイオの事業基盤となる技術は大きく二つあります。藻を工業的に大量に生産するためには、種株と生産方法の二つが必要です。一つ目の株については、株のライブラリーが該当しますが、単に物理的にたくさんあるから良いのではなく、たくさんある中で各株が持つ特徴のデータを蓄積できていることが、技術基盤になります。二つ目の生産方法については、それぞれの藻類株の特徴に合った培養製法、具体的には光の当て方や栄養素の与え方などが該当します。様々な藻類を扱ってきたため、様々な変動要因を総合的に検証するための土台があります。この二つを組み合わせることで、これまでの藻類産業では商業化できなかった藻類を商業化したり、あるいは商業化できている藻のより生産性が高い技術を開発したりすることができる技術プラットフォームになっています。
藻類スタートアップも増えてきていますが、アルガルバイオが他社と違うのはビジネスモデルと技術基盤の組み合わせだと思っています。まずビジネスモデルとしては、テクノロジープッシュ的なアプローチではなく、マーケットインで最初から出口戦略を描いて、必要な開発要件を最初から研究開発の中に取り込んでおくビジネスモデルが、とにもかくにも大きく違うところです。二つ目に、マーケットイン型のビジネスモデルを支える技術基盤として、要件を満たせる藻類はどの藻類なのかという、物理的な株ライブラリーや機能性や培養条件といったデータ、この二つが揃っていること。データの蓄積については、他社でもできることですが、やはり東京大学の河野先生が先行者として20年以上にわたってデータを蓄積してきた時間的な優位は間違いなくあります。この技術基盤をマーケットイン型のビジネスモデルと組み合わせて、世界で初めて藻類バイオファウンダリーというプラットフォームを構築したのがアルガルバイオです。

どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?

プライオリティが高いマーケットは大きく分けると二つあります。一つ目は、化粧品や健康食品といったウェルビーイング、ウェルネスの領域になります。これらは高付加価値でエコノミクスが立ちやすい領域だからです。一方、プラットフォームとしてお客様から問い合わせをいただく中で、自分としてもある種のサプライズではあったのですが、カーボンニュートラルに向けたCO2の有効利用が案件として多くなっています。こうしたCO2や排水を有効利用したいというプロジェクトに藻類を組み合わせていく環境領域の取り組みは、プロジェクトのパイプラインを増やしていく観点で非常に重要です。

藻類の乾燥粉末

事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?

アルガルバイオは2024年で創業7年目に入り、商業化のステージを迎えたプロジェクトを昨年に1件、今年中にもう1件予定しています。6~7年間の研究開発を終えて、アルガルバイオのプラットフォームから卒業していく商業化の案件が、ようやく産まれつつあるステージにあります。
藻類培養のスケールアップの観点では、大きく分けると3段階あります。一番小さなラボスケールは大きくても10Lぐらいのスケールです。二番目がパイロットスケールで、大きいもので5000L。最後が商業化のスケールで、プロジェクトによりますが少なくとも1~2万L以上くらいになります。アルガルバイオとしては、パイロットスケールまでのステージについては複数のプロジェクトで既に成果を出しており、二つの案件が商業化スケールまできています。いずれもウェルネス分野の高付加価値な領域にあたる案件です。CO2関連の案件はここ1年半~2年ぐらいで引き合いが非常に増えており、ラボスケールから、一番先頭を進んでいるものでパイロットスケールの途中の段階までステージが進んでいます。
組織体制としては、道半ば、五合目に至れたかなという感覚です。藻類の開発プラットフォームとして必要な研究基盤はもともと柏の葉にありましたが、それに加えてシリーズBの資金調達により、パイロットスケールの拠点を横浜に新たに構え、プラットフォームとしての最低限の武器は揃ったのが現状です。施設拡大に合わせて採用活動も進み、研究部門だけではなく、製造技術の開発部門、事業開発、コーポレートなど、会社としての一通りの体制は最低限整ってきました。これからのアルガルバイオの成長を考えると、組織をより強く太く拡大していくのはもちろんですが、アルガルバイオのプレイイングフィールドはグローバルであるべきだとも考えています。昨年のプロジェクト28個のうち27個が国内の案件だったのですが、今後は海外展開を加速させていくための組織体制構築が次の課題になってくると思っています。

今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。

アルガルバイオが超長期的にありたい姿としては、藻類を活用した様々な産業の裾野が広がっていった時に、各産業の会社が使っている藻類の遺伝子資源、つまり藻類の種株はすべてアルガルバイオが開発している状態になりたい。たとえば農業においてはDowDuPont、Monsanto、Syngentaといった会社が農業のあらゆる種子の遺伝子資源を持って世界で大きなシェアを握っています。アルガルバイオも、最終的には藻類のジェネティックスカンパニーになりたいと思っています。
一方で、その理想に至るまでには藻類産業自体がまだ小さいので、藻類を使った化粧品やプラスチックなど、産業を一つひとつ作っていかなければならないと思っています。そのためにもアルガルバイオとして、まずは様々な企業と一緒に産業を作っていきたいです。ジョイントベンチャーを設立したり、テクノロジーをライセンスアウトしたりする形で、藻類を活用した産業を様々な事業会社と共同で立ち上げていくことが、 理想に至る道筋になってくるかと思います。
中期的には藻類のポートフォリオカンパニー、すなわち総合商社的に様々な藻類事業のアセットを持っている状態を実現したいと思っています。 IPOについては2026年を目指して準備を進めているところです。それまでに達成したいマイルストーンとして、アルガルバイオが藻類の産業を作る基盤の一つになっている姿を株式市場に見せていきたいので、既に商業化で先行した健康ウェルネスの領域に続いて、食や環境といった領域において複数の事業化したプロジェクトがある状態まで持っていけるように頑張っていきたいと思っています。

300Lのフォトバイオリアクター

素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?

非常に大きな期待を持っています。高付加価値なウェルネスの領域はエコノミクスが作りやすく、我々単独でもプロダクトを上市するまで比較的走りやすい領域です。しかしアルガルバイオが目指す世界を想像すると、プラスチックや燃料など、様々な素材やエネルギーがバイオ由来に変わっていく世界が理想的です。そこに行くにはリソースに限りがあるスタートアップ単独では不可能なので、大きなリソースやアセットを持っている大手化学メーカーや商社とタッグを組んで、長期的な目線で事業を起こすことが必要不可欠となります。この分野でのパートナーシップに高い期待を持っています。

ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。

日本材料技研という会社は本当に非常にユニークな存在だと思っています。ベンチャーキャピタルとしての投資もされていますが、化学素材産業に非常に根差していて、事業会社とのマッチング機会についても、単にオープンイノベーションという表層的な文脈だけではなく、本当にその会社が抱えている戦略的な課題にアルガルバイオは貢献できる余地があるのかということを、戦略だけではなく技術的なものも含めてご理解をいただいた上でマッチングをご提案いただいています。この技術×スタートアップの経営戦略で、なかなか他の会社さんにはないプレーをされていて、アルガルバイオのビジネスモデルからすると力強いサポートになっています。
また個人的にも、経営者の先輩として浦田さんと定期的に会って、普段なかなか外では相談できない色々な悩みをありのままに打ち明けて、話を聞いていただいたり、ちょっと目線を変えていただいたりしています。そうしたことができる場は、やはりなかなかないので、浦田さんとの関係は本当に感謝しています。

最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。

より良い社会を実現していくためには、新しい技術への挑戦が必要不可欠です。これを開花させていくためには、スタートアップのような先行してチャレンジしている会社と、大企業のようなプラットフォームやリソースを大きく持たれている会社とタッグを組んで、世界中で少しずつオセロをひっくり返していくことがウイニングフォーメーションだと考えています。そういう形でアルガルバイオと共同でチャレンジをご一緒していただける方がいれば、ぜひお声掛けをいただければと思います。

5000Lのフォトバイオリアクターを背景に
木村社長(左)とJMTC浦田(右)

PROFILEプロフィール

木村 周
株式会社アルガルバイオ代表取締役社長CEO
三井物産株式会社にて主に「食と農」「健康」領域での事業投資・経営に携わる。米国駐在中に代替タンパクベンチャーBeyond Meat社への出資参画(取締役会オブザーバー)などフードテック領域での海外事業経験も豊富。2020年当社COOに就任、2021年5月より現職。一橋大学商学部卒。

COMPANY DATA企業情報

法人名
株式会社アルガルバイオ
設立
2018年3月
本店所在地
千葉県柏市
事業内容
藻類及びその成分の研究開発、生産及び販売
ウェブサイト
https://algalbio.co.jp/
インタビュー掲載日:2024年06月01日
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