世界をリードする単結晶技術で
新材料・新技術を迅速に社会実装
貴社の事業内容を教えてください。
C&Aの基本となる技術は融液から結晶を作るという技術です。東北大学発スタートアップなので、東北大学の研究室で開発したものをC&Aで事業化するというスタイルになっています。結晶と言われてもなかなかイメージがつきにくいと思うのですが、世の中の身近なものとしてはサファイヤやルビーなどの宝石が一番近いです。宝石の場合は見た目が綺麗であるということが重要ですが、C&Aが取り組んでいる結晶の場合は特徴的な動きをする結晶に着目をして、工業製品として使えないかという観点から研究をしています。C&Aは、そういった研究室での研究成果を社会実装するために作った会社です。
一方で、大学発スタートアップの難しいところですが、自分たちで大量生産をできるかというと簡単ではありません。そこで、自分たちが得意なのは開発なので、その開発をうまく生かして会社として事業が回らないものかと考えました。そこで考えたのが、まず知財を確保するということです。新しいものを生み出すことができるということは当然特許になりますので、知財を生み出すと大学との共願で特許を取ります。そこだけで終わらせると社会実装までいかないので、それを実際に製造する技術が必要になります。大学の場合は、例えば1~2mmくらいの大きさのものを作って、一通りの特性を調べたら論文を書いて「これで成功しました」と言うことが多いのですが、それでは社会実装には不十分です。実際に企業の方々が考えるような損益分岐点を超えなければならないという観点からは、さらに特性を落とさず安価に製造する技術も必要になってきます。単結晶事業の場合、損益分岐点を超えるためには、2~3インチを超えるような大きさのものを作れるようになる必要があります。そこで、研究室では2~3インチ、場合によっては4インチのものができるような技術まで確立しました。最初のうちは大企業の方々に「どうでしょうか?」とご紹介していたのですが、徐々に自分たちでできるものは自分たちでやろうと考え、技術を開発して知財化した上で、製造自体は地元の中堅企業の方々にOEM形式でお願いするようになりました。
会社の設立経緯を教えてください。
最初は、大学で自分たちが開発したものを社会実装できれば満足で、必ずしも自分たちが会社を作ってスタートアップでやるという必要はなくて、大企業の方々が社会実装してくれるのであればそれでよいと考えていました。しかし、2000年くらいから2011年頃まで円高が進んだ時期があって、その頃に日本企業が製造拠点を海外に移し、国内での開発への興味が少し落ちたのか、それまでは技術を紹介すると製造技術の開発をしていただけることも多かったのが、おつきあいしていたメーカーの腰が段々と重くなり、なかなか進まなくなってきました。そのあたりから転機が訪れて、それであれば自分たちでやろうということで、研究室の卒業生・ポスドク経験者・共同研究仲間でいろんなメーカーに勤めていた3人のメンバーに声をかけて始めたのがC&Aです。
C&Aを設立した頃は、ちょうど第2次安倍内閣の時で、三本の矢の一環として、大学や国研の技術を社会実装するスタートアップを起こして日本も企業の新陳代謝を進めるという成長モデルが示された頃で、大学発スタートアップに対する支援もかなり手厚くなり始めていました。大学の産学連携機構などにも相談しながら、投資会社に対するピッチなどにも参加してお話もしたのですが、相談に乗ってくれる方はいても出資してくれる方は結局見つからなかったので、自分たちの出資金550万円だけでスタートすることになりました。当時は出資金がいらないということではなく、欲しかったけれど誰にも出してもらえなかったのですが、今から思うと割と自由にできた分よかったのかなとも思っています。なかなか出資が得られなかった理由ですが、やはり我々が考えていた方法で本当に量産できるのかというのが、キャッシュフローなども含めて怪しかったのだろうと思います。我々は知財を大学と一緒に取って製造技術を確立してOEMに製造をお願いしますと言っていたわけですが、そのOEMを受けてくれるところがあるのか?ということになるわけです。これは鶏か卵かという話で、その時点ではまだ会社を作っていないのでOEMするにしてもお願いができないですよね。お願いされないから候補の会社もNoともYesとも言えないわけですが、会社を作る前に構想としてお話しすると企業の方々は面白いですねとはおっしゃってくださいます。しかし、実際に本当にビジネスでお金を動かすかどうかとなるとかなり厳しく評価されます。そういうことが我々はあまりわからなかったので、協力してくれると言っている会社は結構ありますよとピッチではお話ししていたのですが、多分そこの蓋然性を疑われていたのだろうと思います。
吉川社長のご経歴と起業にいたった経緯をお聞かせください。
私は高校を卒業して入った大学が埼玉大学の経済学部でした。高校生の時になんとか日本の役に立てる人間になりたいと思って、当時の日本はバブル期で経済がすごく成長していた時期でしたので、経済学がいいかなと思い経済学部に入りました。しかし、経済学部で勉強しつつ、もう少し世の中が見えるようになってくると、実は日本は製造業がすごく強くて、それで経済発展しているということが見えてきました。そうした気づきがあって、工業技術といったものに貢献できるような人になりたいと思いました。それで、経済学部では一応留年はしないようにしながら、もう一回受験勉強をして東京大学の理科II類に入り直しました。そういった経緯で1年間経済学を勉強していたので、例えば株式会社とはどういうものであるとか、剰余価値を利益に回して会社を発展させるなど、マクロ経済学の大枠は少しだけ聞いたことがありました。そのため、会社を作ることになった時に、起業する際に使われる、理系の大学の授業では聞かないような割と特殊な言葉でも、少し調べれば理解できるような立ち位置にいたので、理系だけ勉強してきた方々よりは起業するハードルは低かったかもしれません。
理系に進んだ後は、もともと材料関連は日本が強いので、その分野に進んだ方がいいだろうとは思っていました。また小さい頃から宝石みたいな綺麗な石が好きで、落ちていると集めたりしていたように、鉱物みたいなものには興味があったので、そういったこととも関連して結晶の方に進んだというのはあるかと思います。大学院での研究テーマは結晶だったり、超伝導だったりしたのですが、基本的には綺麗な石と材料研究に興味があって、やっていく中で、結晶の方にだんだんとシフトしてきたのだと思います。
大学の後の進路については、当時は民間企業だとお酒が飲めないと出世できないぞと先輩から聞かされていて、私はお酒が飲めないので民間企業はきついだろうなと思っていました。一方で、当時の研究室の教授は全然飲めないのに大先生になっていて、研究職だったらいけるのかもしれないと思いました。ちょっと本質とは違うところで進路を選択していますね(笑)。そんなこともあって研究職には残りたいなと思っていたのですが、博士課程2年生の1997年5月に東北大学・金属研究所の福田先生から「ポストが空いたから6月から来い」と言われて、博士課程を中退して、助手、今でいう助教として採用していただきました。その後、2000年頃に大学発スタートアップの最初のブームがあって、私のボスだった福田先生も起業なさっています。そのため、研究室で自分たちの目の前に起業した先生がいて、そのスタートアップに集まったメンバーもいて、大きな商社からも出資いただいて商社の人も入ってきたりしていました。そうやって会社を作っていくのを見ていたので、こういうふうにしてやっていくのだなというのを見られたのは、いい経験だったと思います。
そして准教授になった後に、先ほどお話ししたように企業が社会実装してくれなくなってきて、であれば自分たちの手でやりたいと思い始めました。ただ、最近は違いますが、当時の大学はボスの教授がいて、その下の人たちはその命令に従う感じだったので、自分で独立して会社作りますとか、そういう感じではなかったですね。やはり自分で色々と決められるのは教授になってからなので、教授になったらすぐにでも会社を作ろうと思っていましたが、私が教授になったのが2011年で、大地震で東北地方は大変なことになって、我々の研究室も装置が全部壊れてしまいました。ケガをした人がいなかったのは幸いだったのですが、それから2年近くは復旧に追われることになって、2012年11月にやっとC&Aを設立できました。
事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?
C&Aの基盤技術は融液から結晶を作る方法です。これは例えばシリコンやガリウムヒ素(GaAs)もその方法で作られています。最近だと、ガリウムナイトライド(GaN、窒化ガリウム)を作るのに必要な基板材料のサファイヤも融液から結晶成長させています。その製造技術自体は数十年にわたって使われている方法ですが、我々はこれまで世の中になかった元素の組み合わせの複合化合物を研究室で開発して、この元素の組み合わせであれば融液成長できて既存材よりもいい特性を示しますよという材料を出して、それを事業化しています。そうした材料探索の部分に他社との違い・特徴があります。この材料探索まで一企業で全部やろうとするとスタートアップではやりきれませんので、その材料探索の部分は東北大学の研究室が研究して、そこでいいものが見つかったらC&Aが製造技術を開発するという役割分担になっています。
融液成長の代表的な方法には、チョクラルスキー法(Cz法)やブリッジマン法といった方法がありますが、それらは一つの組成を実際に作ってみるのに1週間はかかります。我々は同じ融液成長でもマイクロ引き下げ法(μ-PD法)という、小さな結晶を短時間で作る方法で研究開発に取り組んでいます。この方法を使うと、他の方法では1週間かかる結晶成長を5時間~10時間くらいで試すことができるので、それを使って他の人たちの数十倍のスピードで材料探索をすることができます。なので、我々の勘がいいというわけではなく、たくさん失敗して、その中から同じような確率でも、失敗している量が多いので、東北大学/C&Aの方が先にいろんなものが見つかるということです。
マイクロ引き下げ法は品質の面ではそれほど最高品質のものができるわけではないので、結晶業界の人からすると、短時間でできても品質はあまりよくないという感じで、キワモノ扱いというか本道ではないという見方をされる方が多かったと思います。我々は、それは承知の上で、少しだけ組成を変えた程々の(特性比較は可能な)品質の結晶を十個並べて作ってみて、いいものが見つかったらそれをベースに探索していく。そして一番いいものが見つかったら、引き上げ法で高品質のものを作って本来の特性を評価するというアプローチをとっています。日本ではあまり進んでいませんが、アメリカやヨーロッパではマイクロ引き下げ法の導入が結構進んでいますし、中国や韓国でもマイクロ引き下げ法を入れている研究室も出てきています。ただ東北大学/C&Aでは50数名の研究員で取り組んでおり、なかなかその規模の研究室は中国でも持っていないので、そう簡単には負けないと自負しています。
今後に向けては、自動化プログラムとベイズ最適化の様な機械学習とを組み合わせる方式で、人数をかけなくてもバッチ数を稼ぎ効率的に最適化できるような取り組みを始めつつあります。まだロボットで結晶を作るところまではいっていませんが、マイクロ引き下げ装置の一部はセッティングだけは人間がやって、後は自動化できるようになっています。解析についても、出てきた結果をベイズ最適化して最適値を見つけるようなことも取り入れています。いずれ全部ロボットにできれば人数をかけなくてもよくなりますが、今はできるところから導入を始めています。
どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?
C&Aのターゲット市場としては、最初シンチレータに特化しました。シンチレータというのは放射線を検出する装置に使われるもので、割と重要性が高いのですが、市場規模はグローバルで1500億円程度と大きくないので大企業は殆ど入ってきません。そのため、企業体としては、あまり強いライバルがおらず、スタートアップが急に入ってもある程度戦えます。同じ結晶材料でも半導体になると、ものすごく頭のいい人たちがたくさんいるので、その中で戦って存在感を見せるのは大変です。研究人口がそれほど多くないシンチレータ業界に入って、ある程度のボリュームの成果を発表し続けたら存在感を示すことができ、ある程度認知されてきた時にC&Aという会社を作りました。製品としても、半導体や車載であれば、たくさん検査をした後でやっと採用されるということになる長期戦かと思いますが、シンチレータの場合は特性が良ければ割とすぐ採用されるところもあり、最初はシンチレータから入りました。
事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?
今、年商としては10~15億円ぐらいになっており、半分くらいはGAGG(ガドリニウムアルミニウムガリウムガーネット、Gd₃(Ga,Al)₅O₁₂(Ce))を主力とするシンチレータの材料販売で、残りは装置販売や技術コンサルです。うまくいって売れているものもあれば、いくら自分たちの思いを持って開発してもなかなか売れるところまでいかないものもやっぱりあります。社員数は24~5名で、20名近くは開発で金属研究所内のラボに民間等共同研究員として所属していますが、徒歩圏内に本社事務所があって、そちらで4~5名が営業や製品検査・出荷、管理業務などに従事しています。
今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。
C&Aもだんだんと体力がついてきたので、シンチレータ以外の分野もやっていこうということで、有機EL製造装置の抵抗線の素材を開発したり、次世代半導体の酸化ガリウム(Ga2O3)の製造コスト低減に向けた技術開発をしたり、そんなことを考えています。もし本当に酸化ガリウムの量産化を担当できて、酸化ガリウムの基板のバルク結晶と結晶基板をOEMでも手掛けられるようになったらそれはすごい話なので、今後の野望としては桁違いに市場の大きな半導体の方になんとか入っていけたらとは思っています。そのメインプレイヤーになれるのか、部品のメーカーになるのかはわかりませんが、できるところから進んでいければと思っています。
会社の方向性としては、今までは研究開発をして社会実装するというのが本当に楽しくてやりがいもあるので、将来的にどうエグジットするのか考えることはあまりありませんでした。ただ、最近メンバーで話し合っている中で、結晶メーカーであるC&Aを中心にして、買収した会社や他社との合弁会社など、製造装置メーカーや医療画像装置メーカーが周辺に立ち上がってきているので、そういった会社を合体させたらいずれ上場させることもできるかもしれないなどと思い始めています。
素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?
例えばGAGGではガリウムを使っていますが、地政学的な問題もあって調達が難しくなることもあるのではないかと言われていますので、そういった原料について、商社様や原料メーカー様などから安定的に供給していただけるのであれば是非ご協力いただきたいです。また、ある程度の規模の面白そうな市場があって、そこに投入しようと思っている材料について開発を一緒にやりたいと思っていただけることがありましたら、何か連携ができればと思います。
ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。
C&AとしてJMTCのお役に立てていないような気がするのですが、その割には色々と発表の機会をいただいたり、効果的なインタビューの機会をいただいたり、目をかけていただいているので、何かお役に立てたらなと思っています。また、C&Aは大学発スタートアップなので技術開発はある程度得意ですが、どうやって成長させていくかなど、そういうところの知見があまりないので、ご助言をいただけたらありがたいなと思っています。
最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。
C&Aとしては、大学で研究開発したものを社会実装できたらという視点で頑張っていきたいと思っていますので、こうやったら社会実装、社会貢献ができるのではないかといったアイデアがありましたら、ぜひお声がけいただいて一緒に何か切り開いていけたらなと思います。
PROFILEプロフィール
COMPANY DATA企業情報
- 法人名
- 株式会社C&A
- 設立
- 2012年11月
- 本店所在地
- 宮城県仙台市
- 事業内容
- 単結晶材料および結晶育成装置の製造販売
- ウェブサイト
- https://www.c-and-a.jp/
-
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