INTERVIEW

多能性®中間膜で
世界をリノベートする

株式会社Gaianixx
代表取締役社長(CEO)
中尾 健人
多能性®中間膜で<br>世界をリノベートする
株式会社Gaianixxは、東京大学 田畑研究室にて解明された「動的格子マッチング」のメカニズムを基盤技術として、多段層単結晶化に最適なM4技術(Material, Method, Machine, Members)を構築、その事業化を通して半導体業界の革新と社会貢献を実現するために設立された会社です。 同社の事業内容と将来展望について、代表取締役社長(CEO)の中尾健人氏にお話を伺いました。(2024年2月27日訪問)

貴社の設立経緯と事業内容を教えてください。

Gaianixx(ガイアニクス)は、多能性®中間膜を使って、パワー半導体やLEDなどに用いられる化合物半導体について、高付加価値化や低価格化を目指しているスタートアップです。
我々の技術は、東京大学工学部の田畑仁教授の研究室に研究員として所属している、チーフ・サイエンス・オフィサー(CSO)の木島が発明したものです。木島が自身の発明の特許化について東京大学TLOに相談したところ、東京大学TLOから東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)に技術を紹介していただき、面白そうだからスタートアップにしてはどうかということになりました。その後、技術に長けた木島に加えて経営メンバーを参画させようということで、私に声がかかったというのが設立の経緯です。

中尾社長のご経歴と起業にいたった経緯をお聞かせください。

私は現在42歳ですが、18歳までずっと海外に住んでおり、大学に入学するタイミングで初めて日本に帰国しました。大学卒業後、三菱商事の機械ビジネスユニットが分社化した三菱商事テクノスというところに入社し、自動車や航空宇宙関係の生産設備の販売に携わりました。その後、フィリップスエレクトロニクスジャパンに入社し、車載用光源を扱うオートモーティブディビジョンにて日系自動車メーカーへのグローバルセールスを務め、同社タイ法人へ出向しASEAN地域の統括マネジャーなどを経て、フィリップスエレクトロニクスのオートモーティブディビジョンと子会社でLEDの製造販売をしているフィリップスルミッレズが統合された新生ルミレッズジャパンの日本法人の代表取締役を務めていました。
40歳になった頃、このままルミレッズジャパンの中でキャリアを積み上げるか、外部で新たなチャレンジをするか考えていたところに、GaianixxのCEOポジションについてUTECからオファーをいただきました。Gaianixxの技術について話を聞いているうちに、LEDにおいても半導体のエピの技術は大きな課題になっていたので、高品質なエピができるのであればゲームチェンジャーになると感じ、チャレンジしてみようと思いました。私以外にもCEO候補は数名いたのですが、Gaianixxの事業計画・成長戦略を描いてプレゼンする形での選考が行われ、その結果として私がお任せいただくことになったというのがCEOになるまでの経緯です。Gaianixxに参画するまで、スタートアップでのキャリアというのはあまり念頭にはなかったですが、いずれ起業してみたい、自分でゼロからやった歴史を作ってみたいという思いはありました。

事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?

一般に、ウエハー上に異種材料を成長させるためにはヘテロエピタキシャルという結晶構造を作る必要があります。しかし異種材料は格子の大きさや定数が異なるためミスマッチが起きて欠陥が生じてしまいます。これを「中間膜」と「マルテンサイト変態」の組み合わせにより解決するのがGaianixxの技術です。
まず中間膜という技術は、LEDについて赤崎先生と中村先生が青色ダイオードで使い社会実装に貢献した際に、世界で大きく取り上げられました。下層の材料と成長させたい上層の材料の中間の材料を間に挟むことで、応力や格子定数のミスマッチを緩和する技術で、これによってLEDの発光効率を飛躍的に上げることができました。
この中間膜に、木島が掛け算した技術が、マルテンサイト変態という現象です。これは日本では鉄等の表面処理等でよく使われる技術ですが、組成を変化させるために材料が格子自身の位置関係を崩さずに伸び縮みする技術です。この技術を用いることで、従来の中間膜では応力によって多少の歪みがあるため欠陥が発生してしまうところ、その応力を中間層部分で吸収することができればきれいに成長させることができるというのが、Gaianixxの多能性®中間膜のユニークなポイントです。
この多能性®中間膜を用いたGaianixxの基盤技術は4つあります。まずはやはりご要望が多い①高品質な単結晶を作る技術。それから異種材料を貼り合わせる際に発生する応力を中間膜が補填する②応力緩和の技術。さらにたとえば(100)のウエハーの上に中間膜を敷いてあげることで(111)を形成できたりする③配向制御の技術。そしてたとえばSiウエハーの上にSiCを形成することで、基板の供給量・コスト・品質を安定させ、大口径化も可能にすることによるウエハーの④大量生産の技術。これら4つがGaianixxのコアテクノロジーとしてお客様にご提案している内容です。さらに、Gaianixxの強みは、単一の材料、単一の技術に偏ったものではなく、多能性®中間膜を用いて様々な材料やビジネスを構築できるポテンシャルがあるというところが、非常にユニークなポイントではないかと考えています。

どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?

現在の半導体市場は非常に右肩成長で2020年から2030年に倍の需要になるという中で、特に化合物半導体に限っていうと132%の成長率を予測しています。技術革新に関しても、単元素のシリコンだけではやりきれなくなって、化合物半導体としてSiCのように炭素を入れてみる傾向にあります。また結晶に関しても、多結晶から、よりパフォーマンスが向上する単結晶へと変化しています。それから歩留まりですね。日本の半導体が世界で戦うにはコストはどうしても意識していかなければならない中、まだ歩留まりが30%~60%にとどまっているためデバイスの単価が高い状況が続いています。これを2030年までに10%改善しようというのが、NEDOなどが掲げている目標となっています。
こうしたマーケットトレンドに対して、Gaianixxの単結晶の技術、欠陥削減、コスト削減というところをモチベーションとして参入していこうと考えています。Gaianixxの製品群としては、①多能性®中間膜を敷いたウエハーそのものを販売する、②単結晶の金属膜をのせた状態、③テンプレートとしてお客さんがエピ成長を簡単にできるような素材、それから④エピすべてを成長してお客様の方に販売する、この四つのラインナッププラス⑤共同研究開発のサービスを含めて、五つのアイテムを我々の製品としています。
Gaianixxの中間膜の展開として面白いのが、非材料依存と言っていますが、どのような材料にも使えるというところが大きな潰しが利く点です。例えば単元素の方から化合物、それから酸化物、金属膜といったあたりに展開していけるのが、このビジネスの一番リスクヘッジできるところです。
ビジネスモデルとしては、サプライヤーから原料や装置の標準機を購入し、Gaianixxの付加価値を載せて多能性®中間膜を販売したり、それ以外のエピを成長させたウエハーをデバイスメーカーに販売したりする、シンプルなビジネス構造となります。

事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?

これまで、だいたい30~40社の事業会社といろんなお話をしました。その結果として、実際にPOCに進んだ案件は、当初はPZTから始めて多種多様な材料に展開しており、2023年だけで10社との技術開発に着手しています。お客様からNRE(Non-Recurring Engineering、開発費)をもらいながら、彼らのビジネスに直結する形で共同開発を進めています。
売上は、創業1年目(2023年2月期)は約1100万円、創業2年目(2024年2月期)は約6000万円で着地する見込みです。来期(2025年2月期)は大きなジャンプの年として売上1~2億円を目指しており、NREとサンプル販売で目標を達成していきたいと考えています。特許については国内外で58件を出願しています。
メンバーについても、事業化に向けてビジネスフィールドで経験がある者を集めています。たとえば、トヨタでアナログ半導体の工場を立ち上げたメンバー、プロダクトマーケティングのメンバー、ベアリング会社で現場の原価計算などやってきたファイナンスのメンバー、東芝でSICやPZTの分析評価をやってきたメンバー、アルバックで装置の研究開発メンバー、デンソーでSiCの成膜をやってきたメンバーなど、組織も順調に成長しています。2025年までにはしっかりとメイン量産体制が整うようなメンバーを揃えていくつもりです。

今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。

現在、Gaianixxでは、東京大学の技術を応用化して、国内の事業会社をお客様として共同開発などをしている状態です。今後この共同開発が進んでいった上での事業上のリスクとしては、材料の供給パートナーと成膜装置の供給パートナーが必要となりますが、いずれについても既に非常に有効なパートナーシップを築きつつあります。
今後の量産に向けて次のフェーズにやらなければならないこととしては、量産パートナーを確保することが必要であり、候補となる企業と話を進めています。その量産パートナーに、装置メーカーのパートナーから供給した装置を導入してもらい、量産をしっかりしていくことで、Gaianixxからは生産技術を移管して量産技術を共同開発し、量産委託という形でWINWINな体制を取っていくことになります。そして国内の顧客に供給をしていくとともに、2025年以降は貿易上の規制への対処なども含めて電子部品関係にも強いグローバルな商社をパートナーとして、海外展開に向けた検討を始めています。

素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?

Gaianixxの技術は、エピ成長に限らず応力緩和を必要とする接着剤のような用途でも利用可能性があります。そういった点については、いろんな課題をぜひ協議させていただきたいと思っています。中間膜の使い道も我々のアイデアでどんどん増えてきていますが、やはりお客様の方で抱えられている問題を是非共有いただき、我々もそこに挑戦する機会をいただけたら非常にありがたいなと思っています。
たとえば金属膜については、単元素なのでエピよりもハードルが低いのですが、基板の電極とかをやられているお客様の中で、その電極の材料自体をエピさせることで効率を凄く上げることができる。そのような使い方で、熱伝導率を良くするなどの提案をし始めたところです。

ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。

浦田社長からご紹介いただいたアルコニックス様とは、これまであまりお付き合いがなかったのですが、今回コネクションができて、投資にも結び付いてビジネスにも結び付いたというところで、非常に感謝しています。他にご紹介いただいた件も含めて、非常に有意義なご縁を持たせていただいたと思っています。またウェビナーを踏まえて、お客様から問い合わせをいただいているケースも結構ありますので、引き続き機会があれば是非お声がけいただければと思います。ものづくりに強みを持つ日本の再建に非常に素晴らしい取り組みをされていると思います。

最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。

Gaianixxは、我々のコア技術を社会実装することで、よりエコな、より良い社会を作ろうと思ってメンバーはやっています。会社のビジョンにも載せていますが、この普遍的な先端技術によって人類のための最大の貢献を果たすというのが我々のビジョンです。戦う「競争」ではなく共に創り上げる「共創」として、企業様のお力になれるようなスタートアップになりたいと思っています。ご関心あれば、是非お問い合わせいただければと思います。

左から中野聖大COO、木島健CSO、浦田興優(JMTC)、中尾健人社長

PROFILEプロフィール

中尾 健人
株式会社Gaianixx代表取締役社長(CEO)
成蹊大学経済学部卒業後、総合機械商社に入社し自動車・航空宇宙・半導体等の「モノづくり産業」に従事し、多種多様な製造・製法を学ぶ。 その後、外資系総合電機メーカーにて日系顧客向けの半導体ビジネスをグローバルで展開し、日本・米国・欧州・中国・東南アジアを統括しビジネス拡大に貢献。 2015年から海外に駐在し海外営業拠点統括を経て、2019年に同社 日本法人 代表取締役に就任し経営に携わってきた。 2021年にGaianixxを設立し、2022年にCEOとして着任。

COMPANY DATA企業情報

法人名
株式会社Gaianixx
設立
2021年11月
本店所在地
東京都文京区
事業内容
多能性®中間膜及びエピタキシャル研究開発・製造・販売
ウェブサイト
https://gaianixx.com/
インタビュー掲載日:2024年04月01日
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