INTERVIEW

モノの機能を自在に設計可能な
社会を実現する

Nature Architects株式会社
代表取締役CEO
須藤 海
モノの機能を自在に設計可能な<br>社会を実現する
Nature Architects株式会社は、メタマテリアルを活用した独自の設計技術によって、従来製品を超える機能を実現し、既存製造設備で量産性を考慮した設計案を顧客に提供する会社です。同社の事業内容と将来展望について、代表取締役CEOの須藤海氏にお話を伺いました。(2024年11月18日訪問)

貴社の事業内容を教えてください。

Nature Architectsは、メタマテリアルと折紙工学を研究していたメンバーによって創業された大学発スタートアップで、一言でいうと「カタチ」で価値を創出する会社です。ミッションは「あらゆる製造業を設計から革新する」、ビジョンは「様々な分野の融合を人と計算機の共創により「カタチ」で価値を創造する基盤となる」としています。メタマテリアルや折紙工学をベースとして、モノの「カタチ」でありとあらゆる製品をより革新的な設計にしていくところがコアの強みとなっています。

会社の設立経緯を教えてください。

Nature Architectsを設立した創業メンバーは大嶋泰介(顧問)、谷道鼓太朗(取締役CTO)、私の3名ですが、当時は東京大学・舘知宏先生の研究室に所属する博士・修士として、メタマテリアルや折紙工学を研究していました。この研究領域では非常に幅広い応用研究がされているにもかかわらず、実際に事業化されている例がほとんどなかったので、この技術を事業にできたら非常にインパクトがあるのではないかと思っていました。そうした中、まずは大嶋がメタマテリアル研究を事業化しようということで起業したのですが、その時に谷道と私にも声をかけてもらい、私としても折紙の産業応用化に非常に強い関心を持っていたので、共鳴して参画したというのが会社設立の経緯です。

須藤社長のご経歴と起業にいたった経緯をお聞かせください。

私の専門は折紙工学ですが、小学生のころから折紙が好きで、いつか自分で研究したいなと思っていました。東京大学の舘先生は折紙工学の第一人者として折紙コミュニティの中では有名な方で、私も中学生のころから存じ上げていたのですが、大学院で師事することができました。そこで研究している中で、折紙の技術は工学・建築・医療と幅広い応用可能性があることを知ると同時に、それがちゃんとビジネスになっている例がほとんどなかったので非常にもったいないなと思いました。もともと起業に興味があったわけではないのですが、折紙の産業応用を実現するのであれば、自分でビジネスするのが一番早いと思ったのは、起業した一つのきっかけです。
もう一つのきっかけは、私と谷道が「未踏IT人材発掘・育成事業」という国のプログラムに採択されたことです。この未踏というプログラムは、IPA(情報処理推進機構)という経済産業省が母体となっている法人が行っているもので、ITを使って社会に変革をもたらそうとしている強い意志のある若者に対して、約8カ月の間、助成金をつけてくれるプログラムです。また、この助成金を経て自分の考えていることを具体的に実装していった人たちによって、ある種の起業家コミュニティが構成されています。技術に強いこだわりを持って、なおかつそれをビジネスにしようという意志がある人たちのコミュニティの中で切磋琢磨することによって、具体的に自分の力で技術をプロダクトにしていく力を身につける修行の場になっています。こうした、シリコンバレーのような起業家たちのコミュニティがあって、そこに大学の研究者なども入って、新しい事業を興していくようなエコシステムを日本に実現しようとしているようなプログラムです。舘先生や大嶋も未踏出身だったので、私や谷道も漠然とやりたいことがあるといった相談をしていく中で、自然と未踏に応募しようという流れになっていきました。そうして未踏に採択されて、折紙の設計の技術に、折紙の専門家ではないプロダクトデザイナーや建築家といった人たちが誰でもアクセスできるようなソフトウェアを開発しようとしました。その開発をした過程で、やはりこれを研究だけに留めておくのは非常にもったいないと思い、どうにか実際の産業において実装していこうとして起業しました。

事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?

Nature Architectsがメタマテリアルと呼んでいるものは、材料と構造を掛け算することによって物性がコントロールされている物質、というふうに広く捉えていただければと思います。例えば、普通のゴム材料であれば上下に潰すと横に広がりますが、穴の開け方を工夫することによって、上下に潰すと左右からも縮む「負のポアソン比」を実現することもできます。こうした構造の工夫によって、自然界に存在しない物性も実現することができるというのが、Nature Architectsのコア技術です。
例えば製品化までこぎつけた一つの応用例として、イッセイミヤケ様と共同で、一枚のピースで作られたジャケットを開発しました。通常ジャケットを作る場合、複数のピースを縫い合わせて立体を作っていきますが、折紙工学を用いたコンピューテーショナルデザインを使うことによって、一枚の布の中にジャケットの形に立体化するような構造をプログラムして、布に熱を加えると自動であたかも二次元のパターンが生きているかのようにジャケットの形に立体化されていくようなものになっています。このジャケットは2025年3月に発売される予定です。
Nature Architectsの大きな特徴は、ありとあらゆる製造業の皆様と一緒に設計をしていくところです。重工業、造船、航空機、自動車、建築、農機具、ファッションといったありとあらゆる領域で設計をしています。私たちのコア技術が大きい価値を出せる領域は新規設計です。新規設計においては、流用設計のようにベースのある設計があるわけではないので、ゼロから新しい構造を見つけていくことが必要になってきます。この新しい構造を、人の手だけではなく計算機のプラットフォームで生み出すことができるのがNature Architects Design Platformです。Nature Architects Design Platformは主に四つの構成要素から成り立っています。まず、構造ライブラリと呼んでいるのですが、メタマテリアルや折紙工学とカタチや機能とを紐づけたものをデータベースにしたものがあります。ここから発想をスタートして、具体的な製品の形状に適用してシミュレーションを行います。さらに、例えばフルカーシミュレーション(車全体でのシミュレーション)にも応えられるような大規模演算が可能な計算機を用いながら、最適化やAIアルゴリズムを使って、人だけでなくコンピューターによって新しい形を探索していきます。この技術は、衝撃吸収、均一冷却、振動制御など、あらゆる物理領域に活用することができます。
Nature Architectsでは、目指す世界として設計のあり方を変えたいと考えています。既存の設計のやり方は、部署で分かれて行われており、設計と性能評価も部署が分かれていて、形を作る人とシミュレーションして実際に評価してそれを可視化する人が分かれています。そのため、新しいアイデアをどんどん検証していきたいのに、PDCAサイクルを回すにも非常に時間がかかるといった課題があります。Nature Architects Design Platformを用いると、設計案を出すところからシミュレーションまで、一気通貫で一人の設計者で行うことができます。そのため、非常に高速に設計提案をして、設計のサイクルを回していき、新しい設計をどんどん生み出していくことが可能となります。長期的にはNature Architects Design Platformによって、製品設計における人と計算機の役割を再定義していくことを目指しています。現在の設計はComputer-aided Design(CAD: コンピュータ支援設計)や Computer-aided Engineering(CAE:計算機援用工学)と言われるように、計算機の貢献は設計者の作業補助程度となっています。CAD/CAEの起源として、1963年にアイバン・サザランドが開発したスケッチパッドというCADの萌芽のようなツールがあるのですが、そこから60年ほど経っているにもかかわらず、そうしたComputer-aidedという概念は変わっていません。Nature Architectsが目指す世界は、私たちの造語でSoftware-oriented Designと呼んでいますが、複雑な現象を計算機がとらえて、人は創造性の発揮に注力するという形で、ソフトウェアを前提とした設計を目指しています。特に昨今では、Software Defined Vehicle(SDV)といった言葉に代表されるように、ものづくり自体がソフトウェアありきで構築していこうということもあり、車と車がソフトウェアによってつながっていって、どういう車があるべき姿なのかというところも、どんどんソフトウェアから定義される時代になってきています。設計のサイクルもどんどん短くなってきているので、今のようなヒューマンベースの設計ではなく、ソフトウェアを前提とした設計に変えていきましょうというのが、Nature Architectsが長期的に目指しているビジョンです。

どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?

Nature Architectsではコア技術をどのように応用するかを探索してきていますが、製造業で累積して見ていくと非常に大きい市場規模のポテンシャルがあります。現在、自動車においてはR&Dから試作設計・量産設計まで入り込めています。今後は家電や航空宇宙といった領域に広げていく予定です。

事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?

ここ一年くらいの動きになりますが、完成車メーカー様の車両開発と先行開発にしっかりと入りこませていただくようになりました。車両開発では実際に一緒に設計するぐらいまでやらせていただいています。切り出された業務をお願いされて設計するような単なる設計委託ではなく、設計のパートナーとして、どのような構造やコンセプトが良いかを一緒に考えていく設計の提案をしたり、どのような物理現象が起きて何が問題になっているのかまで入り込んで設計したり、かなり問題解決型での設計業務を行っています。
具体的なケースとして、電気自動車の衝突安全設計についてお話します。よく電気自動車(EV)になると車の設計が簡単になると言われることもあるのですが、衝突安全性能という観点から見ると逆に難しくなっています。非常に可燃性の高いバッテリーが車の床下全面に敷き詰められており、ある種爆弾を抱えて走っているような状況になります。車が衝突した際に、可燃性の高いバッテリーが燃えないように車を固めていかないといけないのですが、固めていくと重量が重くなってしまいます。いかに軽量化しながら車を守るか、バッテリーと人を衝突から守るかということに各社とも非常に苦戦しています。そうした中で、Nature Architectsの新しい発想によって、大幅な骨格構造の変更が必要な設計において貢献していこうとしています。特に、衝突安全性の評価は非常に非線形性が強い現象ですので、最適構造の探索というのは非常に難しい問題なのですが、Nature Architects Design Platformでは、独自の衝撃吸収構造の形状探索アルゴリズムとノウハウを持っています。そのため、衝突安全性能の設計の初期段階において非常に膨大なコンセプトを立案して、筋の良い骨格構造体を提案できるため、自動車メーカーの方々から非常に重宝されています。Nature Architectsとしては、部材単位だけでなく、車全体での設計の提案をしています。

今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。

現在は設計委託とソフトウェアプラットフォームの両方を組み合わせたような形でご提供していますが、将来的にはNature Architectsとして試作品や量産品を納品していくビジネスも可能性としてはあります。まずは足元の受託について、国内の自動車OEM2~3社に対して海外も含めてしっかりと同じ価値を提供することが重要です。他産業への展開については、航空宇宙・重工業といったところが花開きつつあるので、そこの受託をしっかり取りにいきたいです。高単価なアプリケーションのパイプラインを構築していきつつ、試作品を納品していくビジネスも広げていて、向こう3~4年くらいで大きい売上をあげられるようにしていく予定です。利益は設計の委託でしっかり取って、試作品の販売で売上を上乗せしていく形を考えています。

素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?

直近では、物理限界に挑戦するぐらいの設計要件の問題に取り組んでおり、構造だけではなく材料も非常に限界ギリギリの材料を使っていくように、試作段階では突き詰めています。そうすると、それを量産する段階では、特殊な性能を持つ材料をどのように量産して市場に流通させていくかという観点で、協業していただける企業様があるとありがたいと思っています。また材料技術という点では、樹脂と樹脂の接合や金属と樹脂の接合に強みのある企業様の技術、あるいはリサイクル性の高い接着剤や剥がせる接着剤といった革新技術があれば非常に興味があります。

ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。

JMTCには、これまで材料メーカー様を多くご紹介いただき、共同研究の種を一緒に探していただいてきました。そこは引き続き何かできればと思っています。今後はさらに、試作品の加工を行っていくためには、加工メーカー様と組むことで何か新しい価値を出せるのではないかと考えています。材料のようなピュアな川上に加えて、川中のミドルレイヤーの技術を持った企業様との協業を是非探索したいので、そうした企業様のネットワークにもご紹介いただけるとありがたいです。

最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。

百年に一度の変革期と言われるぐらい製造業は大きく変わろうとしています。材料、設計、ものづくり、シミュレーションといったプロセスが別々になっていたのが、融合して考えないと次のステップに行けない時代になっています。Nature Architectsは、設計をメインにやっていますが、素材をメインにやっている方々と一緒に深く協業することによって、この百年に一度の変革期を日本が乗り越えられるような力を全員でつけることができます。世界中で新しい製品設計や素材ものづくりがどんどん生まれていく中で、日本がそのトップに立てるよう流れに貢献していきたいです。

左:須藤CEO 右:JMTC浦田

PROFILEプロフィール

須藤 海
Nature Architects株式会社代表取締役CEO
山形県生まれ。東北大学理学部卒業後、東京大学大学院総合文化研究科にて、折紙工学の研究により修士号取得。折紙技術を用いたプロダクト設計支援ツール「Crane」を谷道と共に未踏事業にて開発。修士課程修了後、Nature Architectsに取締役Chief Research Officerとして参画。Nature Architectsの研究開発をリードすると共に、顧客の前面に立ちプロジェクトの推進から新規案件の獲得まで幅広く貢献。2024年10月から代表取締役CEOに就任。

COMPANY DATA企業情報

法人名
Nature Architects株式会社
設立
2017年5月
本店所在地
東京都中央区
事業内容
構造ライブラリおよび統合設計環境を活用した製品設計支援
ウェブサイト
https://nature-architects.com/
インタビュー掲載日:2024年12月01日
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